PayPal創業者ピーター・ティール、「起業家は誰もが目指すものではない」(後半)

ピーター・ティールのQ&Aは続く。

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PayPal創業者ピーター・ティール 来日!大学生へ起業の奥義を語る(前半)

もしもティールさんが東京に住む22歳の日本人だとしたら、どのような事業を始めますか?

私は、「人はみんな自分が好きで得意なこと、そして他の人があまりやっていないことをやるべきだ」と考えてきました。自分にしかできないことを、自分自身で見つけなくてはいけないのだと思います。世の中に反発して自分の道を突っ走れということではありません。(それも選択肢の一つだとは思いますが。)「これなら、自分はやっていける!」と思えるモノをやれということです。この考え方を私が大事だと思うのには理由があります。

アメリカでは、2万人もの人が映画スターを目指してロサンゼルスに引っ越してきます。引っ越してきた人たちは、演技が上手く、情熱を持ってそれに取り組んできた人かもしれません。しかし仮にそうだったとしても、それがその人にとって賢明な選択だと思えないと考えるのが一般的だと思います。映画スターを目指している人が多すぎるからです。20人しか入れない枠を、毎年2万人で争っているのが映画界の実情かもしれません。従って、自分に得意なことがあっても、それを他の人が既にやっているのであれば、それをやるべきではないと思います。
 
生まれ持った才能は人生の成功を左右すると思いますか?

「氏か育ちか?」や、「生まれつきのモノと育ってきた中で培われてきたモノのどちらが強いのか?」ということは常に議論の対象となっています。私自身は、ドイツで生まれ、1歳になる頃に家族と共にアメリカに移住しました。私がもしドイツで子ども時代を過していたとしたら、実際に私が北カリフォルニアで過ごした子ども時代とはかなり違っていたのではないかと思います。カリフォルニアでは、起業化になることも将来の選択肢の一つだと考える風土があります。そういった意味で、そんな環境から影響を受けたという側面はあります。

私は、全ての人が起業家を目指すべきだとは思っていません。むしろ、起業家というのは特殊な人たちなのではないかと思っています。起業家を目指していた友人たちに「10年後は何をしていると思う?」という質問をよくしていたのですが、彼らはみんな、「起業しているに決まっているじゃないか!」と答えていました。それはまるで、「金持ちになりたい!」とか「有名になりたい!」という漠然とした願いを聞かされているようでした。本来、会社というのは金もうけをする為に興すモノではありません。人は、アイデアを実現したり、問題の解決に取り組むために会社を興すのです。カリフォルニアや日本の起業環境の違いなどを気にするのではなく、良い事業をやりたいという熱意を持った起業家を私は応援したいと思っています。
 
投資先を決める際にどのようなことを考慮されていますか?

投資のための厳密な公式を持っているわけではありませんが、三つの重要な要素があると思っています。第一に、投資先がどれほどの優れた技術を持っているかという点があります。第二に、どれほどの優れた事業戦略があるかという点をみます。そして三番目に重要なのが、投資対象となっている人間がどれほど優れた人物なのかという問題です。会社をどのように評価するのかの基準は、事業の内容によっても変わってきます。もし、新薬の開発に取り組んでいるバイオテクノジー関連の会社に投資したいのであれば、各社がどれぐらいの技術的な研究環境を持っているのかが重視するべき点になるでしょう。顧客対応が主な事業の会社であれば、技術力ではなく顧客からの要望にどれだけ対応できているのかをみるのが重要です。

Twitter社のように、空飛ぶ車を作ろうとしたのに140字を手にした会社にも厳しい批判をする人がいます。私自身は、Twitterは事業として大変成功していると思いますが、経営的な部分でみると全然上手くいっていないじゃないかという人もいます。いくらアイデアが良くても、経営が上手くいっていなければ意味がないと思っている人もいるのです。

多くの人に評価されている投資先は、実は良いとはいえない

私が投資家として重視しているのは、「投資先は優れた投資先であるのか?」そして、これは矛盾しているかもしれませんが、「その投資先の優れている部分を、なぜ他の人は理解できないのか?」と考えます。多くの人に良い評価を受けている投資先は、実は良い投資先とはいえないのではないかと思っています。優れた投資先というのは、人々が理解できないようなことをやろうとしているところだからです。多くの投資家は既存の概念に囚われ、本当に良いモノは何かということの本質を見落としていますから。ベンチャーキャピタルでは、この考え方に基づいた投資はとても上手くいきます。ベンチャーキャピタルの世界には、人々の考えや誘惑に囚われずに事業をしようという気概を持った人が多くいますからね。「運に任せる」という表現には、気をつけた方がいいと思います。運は人間に理解できるモノではないですから。運という考え方に囚われると、行動を起こす気力もなってしまうと思います。周りの人が言うことや誘惑に惑わされず自分のやるべきことをして下さい。なんとなく投資をしている人は深くモノを考えずに宝くじを買っている人と同じです。そして、そのような人がやっている投資は、必ず失敗するのです。
 
既得権に挑戦しようとしている若い起業家へのアドバイスはありますか?

はい、私自身、障壁の高いところへ投資するときはとても緊張します。中小企業が新たに参入して何かを新しいことやる時、その道のりは既存の大企業が何かを始める時よりもずっと険しいモノになります。ある意味、ペイパルはその点ではグレーゾーンにいたと思います。まず、その事業自体がとても新しいモノでした。私たちも、この事業をやっているのは自分たちしかいないと言っていました。そのような時代背景もあり、私たちに課せられていた規制もありませんでした。ペイパルを良く思わない人は「ペイパルのやっていることは銀行と同じだ」と言っていました。ご存じの通り、銀行は厳しい規制を課せられています。そこで、私たちはペイパルを「銀行の業務をやっている会社」という位置づけから、アメリカでは比較的規制の緩い「送金業をやっている会社」という位置づけにシフトさせたのです。

基本的に、私は既得権益の打破を目標にしている会社が好きではありません。規制が曖昧な上に、それに触れるようなことをする会社に対して法律がかなり厳しく解釈されがちだからです。 例えば、AirbnbはUberと比べると既存業界や規制に上手く適応していると思います。Uberはタクシー業界に敵対的な態度で参入しましたが、Airbnbは宿泊のスタイルに風穴を開けようとしつつも、ホテル業界に敵対的ではありませんでした。ホテル業界を破壊しようと思っていた訳でもないので、ホテル業界側もAirbnbを潰してやりたいなどと思うこともありませんでした。

シリコンバレーの人間は、”Disrupt” という言葉で「常に反乱者であれ」と心がけます 。Napsterはまさに反乱を起こすために生まれたような会社で、音楽業界全体を敵に回しました。タイム誌で取り上げられた翌年、Napsterは政府の介入によって姿を消すことになったのです。競争に打ち勝つことは非常に重要だと思いますが、それと同時に、会社の位置づけを社会に対してどのように示してしていくのかということを考えるのも重要だと思います。

社名の決定は会社にとって非常に重要な決断です。Napsterというのは英語では良い印象を受けるような社名ではありません。音楽や子どもを”Nap”する、つまり誘拐するというような印象を受けます。子どもの誘拐が犯罪なのは言うまでもありません。誘拐という行為を行う人には社会は良い印象はありません。それどころか、政府には誘拐という行為をする人間を取り締まる責務があるのですから。

タクシー業界が震撼するUber。先月、国交省に行政指導された。

タクシー業界が震撼するUber。先月、国交省に行政指導された。

社名というモノには人それぞれに好き嫌いもあります。私はAirbnbのネーミングセンスの方がUberよりも遥かに良いと思います。Airbnbのバーチャルベッドやブレックファストはシンプルで印象もとても良いです。一方で、Uberは1930年代のドイツで使われていた単語に聞こえて仕方がありません。Uberには、自分は何よりも偉い存在、特に法よりも偉い存在という意味があります。会社が問題を抱えている時に、「弊社は『法律よりも偉い社』でございます!」なんて言うと気まずいですよね?
 
志し高き起業家へのアドバイスは何ですか?

難しい質問ですね。私は起業したばかりの人に、「誰と起業したのですか?」という質問をするのが好きです。その質問への悪い答えは、「起業しようと思っていた時に共同創設者の○○と初めて会った一週間後に起業しました」という内容の答えです。そんな答えは、「ラスベガスのスロットマシーンで○○と出会って良いことが起こるかもしれないと思いました。」と言っているようで、とても悪い考え方だと思います。良い答えは、「数年来の友人と起業しました」という内容の答えです。お互いのことを良く分かっていれば、事業の経営や商品開発などの技術的な面においても上手くいくと思います。ですから、誰とどのようにして起業したかというのはとても重要なことなのです。

ペイパルを立ち上げた時、私たちは事業が成功するかどうかは分かりませんでしたが、事業を一緒にやっていく仲間として、長年付き合っていけるような良い関係を築くことができたらと願ってはいました。大学生活や人生で何をやるのかを決めるのはみなさんの自由です。でも、必ず良い友人を見つけて下さい。

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PayPal創業者ピーター・ティール 来日!大学生へ起業の奥義を語る(前半)

 


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1994年、東京生まれ。カナダと日本のハーフ。現在、慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)に通っている。当サイト唯一の運営者。

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