伊藤穰一と村井純が考察する、ブロックチェーンの未来

近年ますます注目されてきた情報技術「ブロックチェーン」。発展段階にもかかわらず、情報革命をさらに促進すると関心が寄せられている。また、仮想通貨として応用した「ビットコイン」もすでに金融界を賑わせており、今後は多方面での応用が期待されている。

この新技術の発展について議論するべく、デジタルガレージ社で「NEW CONTEXT CONFERENCE」 が開催された。ホストはMIT MEDIA LAB所長で、実はSFC研究所上席所員でもある伊藤穰一さん。Joiの愛称で知られる彼の視点から、欧米の先駆者と共にブロックチェーンの未来を探った。

はじめに挨拶でステージに登ったJoiさんは、インターネット黎明期を振り返りつつ、現在のブロックチェーンの盛り上がりについて話された。かつてインターネット普及に貢献した電子メールのように、ビットコインがブロックチェーンというインフラを世間に認知させ始めた。分散型の台帳としてインターネットが解決していなかったセキュアな情報交換を可能にし、すでに投資額がインターネット黎明期を超えていることから今後は設備の拡大がさらに進むと予想している。

次に慶應大学SFCの村井純先生が登壇。かつてインターネット普及のために共闘した盟友とステージを共有した。当時のインターネットは分散型情報共有を実現した。しかし、通信方式や互換性を保ちながら拡大できたのは、最終的に意思決定を統一する機関があったからと説明。これまでブロックチェーンは権力分散の思想を分かち合う有志によって開発されたものの、これからは同様に意思統一が必要になることを示唆した。

レセプションでJoiさんから見識をいただいた

レセプションでJoiさんから見識をいただいた

同時に、SFCでブロックチェーンラボの創立を発表。詳細はこの後の独占インタビューをご覧いただきたい。

最後のセッションではMITのブロックチェーン研究者と共に村井先生が再びお迎えし、アカデミアの役割について模索した 。かつてインターネットの発展を支えてきた大学機関は、今後ブロックチェーンの進展にも不可欠だと訴える。 仮想通貨の研究機関をすでに設立しているMITでも、かつて困難だった医療、著作権管理、金融への応用を進めていると実例を出した。アカデミアならでは実現できる研究のオープン性、中立性、そしてリスクの寛大さをアピールした。 

村井純、白熱! SFCブロックチェーンラボに迫る

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SFC研究所でブロックチェーン・ラボ設立に至った経緯を教えてください。

ブロックチェーンは、インターネットがやり残した信頼のある分散型システムを作っていくきっかけになると考えていました。そして、伊藤穰一と大学の役割について話す中で、日本でもMITと連携する研究体制を作りたいと思いました。
 
すでにベンチャー企業や金融機関がブロックチェーンの研究を進めています。アカデミアならではの役割は何でしょうか?

リスクをとれることですね。日本では国が発展に規制をかけがちです。企業が実験をする場合、金融庁のお墨付きをもらう必要があります。しかし、大学では成功するか分からないような研究を進め、発表する場の提供が可能です。

SFCでは未来創造塾を含めさまざまな研究を行っていますが、ブロックチェーンを応用できる分野の一つに「デジタルファブリケーション」があります。将来的に自分たちでものを作って流通させる新しい社会が来たら、対価の払い方、信頼の担保、法的なコミットメントなど責任所在や知財の問題が発生します。

そのように、現実社会とサイバースペースが融合した時、ブロックチェーンはその接点になります。こうしたデジタルファブリケーションの発展した未来とブロックチェーンの関わりについてアプローチすることは、ファブキャンパスSFCのアドバンテージであり、責任でもあるでしょう。
 

議論で熱くなる登壇者たち

議論で熱くなる登壇者たち


ブロックチェーンの概念は興味深いですが、実感が湧きにくいところもあります。MITではビットコイン100ドル分を学生に配布する等して認知度を上げてきました。SFCでも同じような取り組みを実施しますか?

まだわからないですが、具体的な施策を行うことは大事ですね。あと注意しなければならないのは、作ったものが人を傷つけないかどうか。

ブロックチェーンは、お金や経済だけではなく、多様な分野に貢献できるプラットフォームになると思います。SFCでは遠隔教育のプラットフォームももっているので、分散型台帳を使って学事手続や成績管理、そして卒業証明書などに結びつけられるか試すことも大切です。
 
ビットコインが発展した背景に、反権力や暗号化推進の活動があります。日本ではそのような流れはあまり見られません。国内ではどのように普及すると予想されますか?

国内では、反権力とは逆のプロセスが見られると思います。かつてSFCでインターネットを進めていた頃、規制違反状態を解消しようと当時の加藤寛総合政策学部長(1990年~94年)が元学生の総務大臣に電話してくれたことがあります。厳密にはインターネットは電気通信事業法に違反していましたが、今は誰も文句を言わない。良いことを進めていけば、ある程度実験的でも社会に受け入れられます。

「間違っていた」と言うのも研究の一部です。SFCでは様々な人たちの力を借りられます。理屈と情熱があれば多少受け入れ難い新しい概念を前に進められるでしょう。

 
この記事の初出はSFC CLIPです。

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ローランド リチャード

ローランド リチャード

1994年、東京生まれ。大学時代にリッキーレポートを始める。現在は会社勤めしている。 社会人生活を始めてから更新が途絶えるものの、また新しい記事を投稿したい思いを持っていた。

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