PayPal創業者ピーター・ティール 来日!大学生へ起業の奥義を語る(前半)

ペイパルの創設者であり、シリコンバレーのベンチャーキャピタリストとしても知られているピーター・ティール氏が、新著『ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか』について日本の大学生を対象に語った。講演中に行われた質疑応答では、ティール氏の成功しているスタートアップ企業に対する考察、日本のスタートアップ企業への現状認識、人工知能が人類を負かしてこの世を支配するのかなど、質問内容が多岐にわたった。
 
シリコンバレーのスタートアップは、クリエエイティブな発想で、新しいモノを生み出そうとしている風土が強いような印象があります。一方、日本では新しいゲームのアプリや就職活動、イーコマースのアプリの開発をひたすら繰り返しているような気がします。事業として利益を上げているでしょうが、革新的なことをしているようには思えません。日本のスタートアップとシリコンバレーの場合では置かれている環境にはどのような違いがあるとお考えですか?

例えば、Yahoo!は日米両国のビジネス界を大きな変革をもたらし、よりよいモノにしました。日本のYahoo!は確かに大変な成功を収めていますが、アメリカでは日本と同様の成功を治めているとはとても言えません。両国の違いを認識することが重要です。日本はモバイルの分野ではアメリカよりも多くの先進的な取り組みをしてきました。

シリコンバレーにも他社の真似をしているだけのクローンのような会社は多くあります。シリコンバレーを「ITビジネスの発祥の地」として過大評価するべきでではないと思います。しかし、シリコンバレーの真似でしかないクローンビジネスでも成功する国があるのは事実です。

例えば、ドイツのイーコマースはシリコンバレーを真似した事業しかありませんが、それでも事業として上手くいっているのです。言葉の壁などもありますからね。しかし、あなたが世界を市場にした技術で勝負したいのであれば、何か新しいことをするべきです。どこかの国で事業をしたいのではなく、それを輸出したいのであれば人々がまだ手に入れてないモノを作り出さなければなりません。それが必ずしも簡単なことではありませんが。
 
グローバルな市場で成功するための秘訣はありますか?

規模の小さい市場で始めるべきでしょう。誰もやったことがないことをやり、そこから規模を広げていきます。特にテクノロジーを使った事業の方が世界に通じやすいはずです。はじめは地元の市場を制覇する計画を練りながらも、広い視野を持つべきです。東京で一番の企業になるよりは、世界で七番目になるべきです。
 
スタートアップ企業の人々は流行に大変敏感なように見受けられます。今はAIがその話題の中心になっているようですが、この傾向についてはどのようにお考えですか?

あまりにも技術にばかりに重点を置きすぎていると思います。事業の計画を立てることや、技術をどのように実用化するのかといったことは全く考えていないようです。

例えば、スティーブ・ジョブズのiPhoneには技術的には目新しいことは何もなかったかもしれませんが、それまで存在していた技術を上手く組み合わせました。それこそが真のイノベーションといえるのだと私は思います。これがAI(人工知能)にも適応できるはずです。立てるべき問いは、「どのように技術が進歩してAIができるか」ではなく、「コンピューター技術と他のモノをどのように上手く組み合わせるのか」とうことです。そのような問いの中からこそイノベーションは起こっていくモノなのですから。

私が著書の中で「人々はコンピューターを使うことで楽になりより強くなる」と主張しました。AIに関する議論の中でよく云われることは、「コンピューターが人類に取って代わる存在になる」というような議論です。一方で、「コンピューターと人類が良い関係を保ち共存する方法を考えよう」という視点からの議論が欠けているように思います。持っている技術も強みも人類とコンピューターはかなり違うのですから、本当は今私が申し上げているような考え方を前提とした上でこの議論を進めるべきなのです。コンピューターがヒトより遥かに優れている部分もあれば、その逆も存在します。コンピューターと人類がお互いに足りない部分を補いながら上手く共存していく方法はたくさんあるような気がします。

2045年には人工知能が我々を超えると主張するレイ・カーツワイル氏。(写真は氏のGoogle+より)

2045年には人工知能が我々を超えると主張するレイ・カーツワイル氏。(写真は氏のGoogle+より)


レイ・カーツワイル氏を筆頭に、人工知能が人類を超えた存在となる「シンギュラリティー」の時代が必ず来ると論じているコンピューター研究者がいますが、彼らの言っていることは真実味があると思いますか?

これは多様な議論が出てくる問題だろうと思います。未来について具体的に確定していることなど何もありませんからね。私自身は、人工知能のような技術に携わっている人の数はまだ充分ではないと思っています。世間の人々はロボットによる世界征服、小型の機械によってもたらされる世界の滅亡を恐れていますが、私はむしろ、このままでは開発も進まず何も進展しないのではないかと心配しています。
 
ペイパルの創設に携わった面々は、今では「マフィア」として知られています。ペイパルがeBayに買収された後、ペイパルの元従業員たちは、テスラモーターズやYouTube、LinkedInなど優良企業を数多く立ち上げていますが、そのような優秀な人々がどのようにして一つの企業に揃ったのでしょうか?

一つ忘れないで頂きたいのは、ペイパルが抱える多くの難題を彼らが克服してきたということです。ペイパルでの経験を通じて、彼らは「優れた会社を創造することは困難ではあるが不可能ではない」ということを学びました。マイクロソフトやGoogleのような、ペイパルよりも遥かに成功した企業で働いた人は「優れた会社をつくるのは簡単だ」と思ってしまうかもしれませんが、それはとんでもない誤解です。起業には数多くの失敗が付き物なのですから。一方、何もかも上手くいっていなくて、倒産の危機に瀕している企業で働けば、「優れた会社をつくるのは困難だ」と思い知ります。そして、自分が起業をする時にも壮大な野望を抱かずに事を進めようとするのです。ペイパルでの経験を通じて、しっかりとした心構えを持つことの大切さを私たちは学んだのだと思います。

私は、極端に楽観主義的になることも極端に悲観主義的なることも、健全ではないと思います。極端な楽観主義者は、「深く考える必要はない。どんなことも時の流れに身を任せれば良いさ」と言うでしょう。イェール大学に当時17歳で合格した私の友人がまさにそれに直面しました。イェールの学部長は「おめでとう!君はイェールの学生だ。君にはこれから素晴らしい人生が待っている!」と祝して新入生を迎えますが、そんな言葉を真に受けてはいけません。極端な楽観主義者は、「心配することは何もない」極端な悲観主義者は、「できることは何もないと言います。極端な楽観主義者、極端な悲観主義者の言うことを真に受けると、結局何事も上手くいかずに終わってしまうのです。
 
個性の強い人同士が集まっている環境で、どうやって彼らの衝突を回避してきたのですか?

対立というのは、複数の人間がある一つのモノを自分のモノにするために奪いあっている時に起きると思います。無能な上司の元で働いている部下たちは、大抵たわいもないことでいつも言い争いやけんかをして対立状態にあります。その対立状態は、複数の人間が同じ内容の職務をしている時に発生します。従って、マネージメントをする人間が直面する課題の一つは、抱えている部下各個人の役割をどのように差別化していくかということになると思います。この問題の深刻度は、会社の規模によっても異なります。規模の大きい会社であれば、社員の役割は明確に分かれていて、社員たちは自分に与えられた職務をしっかりとこなしていることが多いです。規模の小さい会社や、立ち上がったばかりの会社などでは、社員のやっている職務が被ってしまうことも多々あり、それが対立を生む原因になっています。

ペイパルのプロダクトチームの部長は、「プロダクトが縫い目のない一つの穴である」とよく言っていました。これはデザインや美学など商品開発の要素についての真実です。しかし組織を統治するという政治的な観点から考えると、ペイパルのプロダクトチームは自分たちそれぞれの考えを一つの商品にきちんとバランスよく反映さるために、いつも対立していたといえるでしょう。個性の強い人間たちの意見を最終的に一つのカタチにまとめるのは、デザインという点だけを考えれば美学かもしれません。しかし、大局的にみると、商品開発を巡る意見の対立というのは、社内での権力闘争が生まれるきっかけになってしまいます。それゆえに、商品を開発していく上中で社内での対立が起こるというのは、当然のことなのでしょう。
 
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PayPal創業者ピーター・ティール、「起業家は誰もが目指すものではない」(後半)

 

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ローランド リチャード

ローランド リチャード

1994年、東京生まれ。大学時代にリッキーレポートを始める。現在は会社勤めしている。 社会人生活を始めてから更新が途絶えるものの、また新しい記事を投稿したい思いを持っていた。

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