慶應から世界へ!米ブラウン大の編入生が肌で感じた日本の課題とは

僕の通う慶應大学での学生生活に満足できないと、米国のトップスクールに入るブラウン大学に転入した先輩がいる。現在大学4年生である熊平智伸さんに留学生活を振り返ってもらった 。
 
1年は日本の大学で勉強されましたが、アメリカの大学とどのように違いを感じますか?

まず、教授と学生の距離が違います。日本にいたときは、授業外でのオフィスアワー制度もなく、個人的に親しい教授を除けば、授業以外で教授と接する機会は限られていました。これはあくまでも印象ですが、教授の側は生徒にやる気はないと感じて積極的な授業の展開ができず、学生は学生で教授は教育に興味が無いと感じている、学生と教授のモチベーションに悪循環が起こっているように感じました。

ブラウンでは入学式の段階から、「教授も学生も同じ学習者だ」というスタンスがはっきりしていました。授業内のディスカッションでも、あまり教授対学生という立場に関係なく一人の好奇心旺盛な学習者として接しているように思います。対等だからこそ、お互いに興味を持ってフェアに評価し、一緒に授業を創っていく姿勢を感じます。
 
なぜ日米間ではこのような違いがあるのでしょうか?

それぞれが教育に期待してきた目的が違うからだと思います。日本の大学では明治以来、学生に各分野の技術と知識の取得させて社会を引っ張るエリート層を輩出することにフォーカスしてきました。アメリカだと大学の密なコミュニティーの中で、一人の人としての考え方、振る舞い方を学びます。どのように物事を考えればいいのか、そして他の人の意見もふまえて、どのようにコミュニケーションをとればよいのかを、全寮制の4年間を通して学びます。

もちろん、アメリカの大学にも短所はあります。ブラウンは大学が大都会から離れているのでキャンパスからあまり出る機会がありませんし、他の大学ともかなり距離があります。それに学業はかなり忙しいので、日本の大学のように慶應生・東大生・早稲田生が都内でワイワイ集まって何かをするようなことはなかなかできません。一方で、その短所を十分に補うだけのネットワークを各地に持っているのがアメリカの大学の特色でもあります。特に今はインターネットがあるので距離の問題もスカイプやメールなどで十分克服できます。例えば東日本大震災の一周年で東海岸の5大学と一緒にプロジェクトをやったときは、他の大学のメンバーと一度も直接会って話をすることなく、全部やり切りました。
 

 
確かにキャンパスライフは米国の方が充実していそうですが、就職活動は日本より難しいと聞いています。

実際厳しい部分もあります。日本の大学にいるように、画一的な時間軸、やり方のレールに乗って進むわけではないので、苦戦してる人もいるようです。アメリカの就活では、説明会に行ったり面接練習をしたりという日本の「就活」よりも、2ヶ月程度の現場でのインターンが就職の準備として一般的です。日本で数日間にわたり企業の方と話をしたり、他の就活生と職業体験をしたりする「インターン」とは違い、アメリカのインターンでは実際に給料をもらいながら2ヶ月程度現場で働いて、職場での向き不向きを評価されます。面倒といえば面倒ですが、ある意味では、数百文字のエントリーシートだけで判断されたり、説明会に行った回数を数えられたりするよりは双方にとってフェアかもしれません。
 
ちなみに熊平さんは将来的にどこに就職したいと考えていますか。

実は自分はですね、いろいろ考えた結果、コテコテの日本企業に行くことにしました。
何故帰国するか、理由は二つあります。1つは自分自身のパッションがどこにあるのかを考えたときに、やはり日本がベースになるということ。もちろんしばらく日本を離れていたこともあり、海外の方が居心地よく感じる部分もありますが、今の自分にとって海外で機会を求める以上に、日本で自分が感じている問題意識から逃げずにいることが大切だと考えています。
もう1つは、海外でキャリアをスタートしても中長期で出せるバリューに限りがあるということです。文系で専門技術があるわけでもなく、アメリカでの就職の誘いがないわけではありませんが、アメリカで切磋琢磨した5年10年先に、本質的に何があるのかが最後まではっきりしませんでした。
 
以前はアメリカの企業に就職するつもりだと発言していましたね。

去年の夏にワシントンDCでインターンをしたことがひとつのきっかけになりました。日本からアメリカに飛び出して華々しいキャリアを歩むのが格好いいと感じていたのは事実です。でも、実際に就職先を決めるにあたって、端から見てエキサイティングなキャリアと、現場でインパクトあるキャリアは別だと思うようになりました。一時帰国で日本に戻ってくると温度差を感じることはありますけど、もうそれにも慣れてきました。今は日本が大きな転機を迎えている時期で、そこで僕らが何かをしないといけないと感じています。ワシントンDCで出会った尊敬する社会起業家たちの、問題に食らいついて生きる姿勢から学んだことも多かったと思います。日本からブラウンを目指していたときは、進路についてそこまで考えませんでしたけど、4年間ブラウンに行ってじっくり考えることができました。
 
ブラウン大学で受けた好きな授業を教えてください。

The Long Fall of the Roman Empire (ローマ帝国衰亡史)
五賢帝マルクス・アウレリウスの後の暗黒時代と呼ばれているローマ史の一時代を紐解く授業で、物議を醸すような内容でした。普通の歴史の授業では議論されないような面白い話がたくさんでて、これが本当に歴史上の暗黒かと思うくらいに学ぶことの多い授業でした。もともと自分は歴史が大好きなのですが、中でもこれは非常に良い勉強になりました。

Nobel Laureate Leon Cooper in 2007

ノーベル賞受賞者が物理学への入門を案内するなど、先生の質も高い。 

Flat Earth to Quantum Uncertainty(物理学へようこそ)
レオン・クーパーっていう80歳ぐらいのノーベル賞を取った先生が教える入門の授業です。ニュートンの重力の方式からアインシュタインの相対性理論まで文系の人にも分かるように簡単に説明し、その上で先生が授業中にいろんな質問をしてきます。理系の数学とかの話ではなく、科学者としての物事の見方、考え方について侃々諤々の議論に発展して、その過程で様々な考え方を身につけます。科学というと一つの答えを導こうとする日本の授業とは、少し立ち位置が違うかもしれません。

Comparative Politics and China (中国比較政治学)
7人という少人数でマニアックな内容を取り上げる院生向けの授業です。政治学に関する本を毎週2冊読みながら、それがいかに中国に当てはまるか黒板に自分のセオリーを書きながら熟議します。国内の大学でも日中関係の研究はありますが、実際に当事国の出身者からの意見がないとバランスのとれた本質的な議論ができないと痛感しました。これは他のクラスについても言えますが、留学生の比率が1%を切っていることが少なくない日本の大学と違い、全学生の2割が留学生というブラウンの環境では国際関係学についてより深い、多面的な議論ができていると感じます。
 

「ブラウンの熊たち」も一緒に応援に駆けつけた。

仲間の「ブラウンの熊たち」も一緒に応援に駆けつけた。


熊平智伸さんプロフィール

1991年、東京生まれ。慶應義塾大学1年の夏に一念発起してブラウン大学への編入を決意。半年の出願準備期間を経て、2011年秋からブラウン大学に2年生として編入。専攻は国際関係論。留学で苦労した学部進学の情報・メンタリング不足を解決するため、同級生たちと留学ランキング一位のブログ「ブラウンの熊たち」を立ち上げる。
 
ブラウンの熊たち http://ameblo.jp/brownujapan/
熊平さんのTwitter https://twitter.com/tombear1991

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ローランド リチャード

ローランド リチャード

1994年、東京生まれ。大学時代にリッキーレポートを始める。現在は会社勤めしている。 社会人生活を始めてから更新が途絶えるものの、また新しい記事を投稿したい思いを持っていた。

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