将来的には自分の体を現地に残しながらも、意識だけ世界中を飛べるかも知れない。そんな未来を提示するのが、近年注目されているバーチャル・リアリティー(VR)だ。東京ビックサイトで開催された『3D&VR展』では、企業の規模問わず、全国からものづくりに長けた出展者が集合した。そんな中、国内でVRの最先端の取り組みについての講演が業界人の目を惹き付けた。
石井 守
富士重工業(株)
スバル商品企画本部 デザイン部長 兼 商品開発企画部長
舘 暲
東京大学
名誉教授
廣瀬 通孝
東京大学大学院
情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 教授
まずは、スバルから登壇した石井守さんが担当している車のデザイン手法について語った。飛行機メーカーとして創業した当時から、ものづくりに対する挑戦のDNAを受け継いでいるという。スバルのデザインは情緒的な要素も数値化するなど論理的思考に基づいており、近年のデジタル技術を活用してさらなる価値向上を計っているそうだ。日本カーデザイン賞のモデルカー部門で1位を獲得したViziv2も、粘土を一切使用せず、はじめからデジタルで制作したとのこと。最近ではVRもデザインの行程に取り入れている。例えば、地球の位置によって光の当たり方が異なるが、それを想定して地域ごとのモデルを設計しているという。また、CG合成のシュミレーションで色や反射の写り方など、車が環境に馴染んでいるかを検証。安全面でも、ドライバーシートの視点から動作を確認し、車のボディーから反射が運転に支障をきたさないように調整するそうだ。
次にステージに上がったのはVR学会設立者でもある舘暲先生だ。はじめに古代ギリシャから人がロボットに抱き続けている夢について言及。しかし、現在の技術力向上によって人間の分身としてサイボーグを製造することが現実味を帯びている。舘先生はこのサイボーグを介してどこにでも「瞬間移動」ができるテレイグジスタンス (telexistence)の研究を進めている。その場所に居るかと感じるためには、「感覚」「運動」「時空」「知」という4つの要素を忠実に再現する必要があるという。今のところ、視覚に関しては研究が捗っているが、感触は発展途上だそうだ。将来的に実用化できたら、高齢者が職場に赴かずにサイボーグの身体を借りて働く応用例など提案した。
最後に同じくVRの研究者である廣瀬通孝先生が登場。「歴史の話はだいたいみんな寝る」と苦笑しつつ、VRの進展について振り返った。89年にもVRの一時的な流行があったために、近年の同じような盛り上がりに「素直に喜んでいいか」と疑問を呈した。今の日本には、人口減少や高齢化社会などの社会問題を山積している。しかし、このような 「計画しない未来」は今後のテクノロジーを見据えていないと批判。特に5年後の東京オリンピックで技術革新が取り入られることを想定している。1964年のオリンピックはフィルムで残っているが、次大会をVRで記録すれば時空を遡って保存ができる。それがVRの普及の発端となり、生活に浸透すれば働き方にも変化が起きると予測。複数人で仮想労働人を構成し、望まれるスキルセットを揃えた人材が確保できるという。シニア非就業者を活かせれば新しい産業セクターが生まれるほどの経済効果も期待でき、モノだけ作る時代から移行できる。
長年研究が進められていたが、最近になって実用化が現実的になりつつあるVR。今後のさらなる社会進出に期待したい。
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ローランド リチャード
1994年、東京生まれ。大学時代にリッキーレポートを始める。現在は会社勤めしている。
社会人生活を始めてから更新が途絶えるものの、また新しい記事を投稿したい思いを持っていた。
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