ニュースアプリ「グノシー」が東証マザーズへの上場を果たした。サービス開始から4年で時価総額400億円。そして創業者の福島良典さんは、現在27歳。元々は東京大学大学院で始まったプロジェクトが、大反響を呼んでそのまま急成長した。海外の若者たちのサクセスストーリーは耳にするが、国内では珍しいだろう。そんな福島さんにグノシーについて振り返っていただいた。
グノシーを起業したきっかけは?
大学時代、僕の周りではウェブサービスを作っている人が結構いました。なので当時からウェブ業界にはとても興味がありました。小さなチームでも、何十万というユーザーを獲得していく同世代を見ていると、年齢や組織の大小は関係なく、いいものを作ればすごく伸びていく業界だということに魅力を感じていました。
同時に起業に対する興味もありました。ちょうど僕が中学生や高校生の頃は、サイバーエージェントが上場したり、ライブドア事件があったりして、ベンチャーがすごく盛り上がっている時期でした。いつか自分でも道を切り開きたいと思っていました。
ここまで若くして起業すると予想していましたか?
元々は一般企業に就職するつもりでした。でもやはりグノシーを学生の頃に始めて会社化するまでも1年半ぐらいずっとやっていましたので、とても愛着がありました。また、ユーザーもついてきていたのでとても可能性を感じ、「このタイミングを逃したら次はないだろう」と感じました。でも今は、逃したとしても、チャンスはどこにでも、どんな時にでもあると思います。
東大でデータマイニング(解析)の研究をされていましたね。
人工知能みたいなSFっぽさが好きだったのもあります。データがウェブ上に溜まっていく中で、それをどう活かすかということについては広くニーズが出てくるだろうと思っていました。また、グーグルからも影響を受けました。今まで人間が暗黙知と言いますか、勘や経験というもので判断をしていたものを、彼らは大量のデータを集めて、自動的に最適な結果を出す仕組みをいろんな業界に持ち込んでいたのです。
開発の経験があっても、経営の経験は?
起業以前にインターンのエンジニアとして働いた事があります。しかし経営ノウハウはありませんでした。幸い、うちの会社にはもう一人共同代表で木村という者がいます。経営に関してよく理解している彼からこっそり盗んでいます。(笑)なので、経営面については仕事をしながら学んでいるつもりです。
グノシーのこだわりは?
グノシーをはじめた時から数字を追っていました。結構ベーシックなものですが、登録ユーザー数、一日ごとに、また週ごとに、そして月ごとにグノシーを使うユーザー数、一人当たりのクリック数などを追跡しています。それらの数字を上げるために、記事を選択する仕組みをいじり、デザインをちょっとずつ変えたりすることを習慣のようにやっていました。
特に記事の収集の仕方を工夫しています。最新のニッチな記事でも拾えるようにしているのと、そのニッチな記事でもメジャーな記事に負けないような評価をするようにしています。また、リスト内で似たような記事が並ばないように気をつけています。スマホは画面が小さいので、一つの画面で見られる情報の多様性の最大化というようなことをやっています。いろいろな話題を振るようにして、結果としてニッチな話題もその中に入ってきます。
旧来の媒体では記事がパッケージとして配信されていました。しかし、グノシーはそれを解体しています。
メディアの作り方が変わっていると感じます。今まではとても能力の高い編集者を雇って、その人の感性で記事を選んでいました。しかし今はソーシャルメディア上でニュースをつぶやいている人がいっぱいいるので、どれがいい記事なのかというのが、感覚ではなく科学的に決まるのです。グノシーが伸びた理由は、記事を収集するためのコストが安く、しかも質の良いメディアを作ることができたからだと思います。
国内ではグノシーが圧倒的なダウンロード数を誇ります 。しかし、海外ではGoogleがニュースアプリを発表するなど、まだまだ戦国時代です。
現在、海外においてはイギリスとアメリカでアプリを出しています。ただ社内でどのくらいユーザーが残るかを探っている段階でもあります。今年はそこの完成度を一気に高めていき、近いうちに国内と海外のユーザー比率が1対1になるぐらいまでにすることを目標です。少なくとも今年か来年中にはそれを達成しなければと思います。
海外展開の際に、今使っているシステムで各国の好みやユーザーのテイストに合わせることが可能です。グノシーの基盤となるシステムは言語に依存していません。結果として海外版自体も、作り始めてから1カ月でイギリスはできていますし、その他の国も2週間あれば対応できます。これは多分、今までのメディアの常識とは全然違うスピードじゃないでしょうか。
最後に影響を受けた一冊を教えてください。
僕はドロドロした人間関係に関する本が好みです。特に『サンクチュアリ』という漫画がとても好きです。もう絶版になっているのですが。二人の男が日本を建て直すというような、とても面白い作品です。
福島良典さんプロフィール
1988年生まれ。株式会社グノシー代表取締役 最高経営責任者(CEO)。東京大学大学院工学研究科にてデータマイニングを研究し、在学中にグノシーを開発。2012年度IPA未踏スーパークリエータ。2012年に株式会社グノシーを創業し、現職。
(インタビューは2014年6月です。)
ローランド リチャード
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