フィンテックがなぜ日本で普及しないのか?日銀出身者が金融業界を斬る

近年、世界中でフィンテックの進捗がめざましい。金融にインターネット時代の技術を応用することでお金がさらに便利になる。まさしくFintechという英語の綴り通りにファイナンス(Finance)とテクノロジー(Technology)を融合させた分野だ。この分野の変遷を振り返るべく、かつて日本銀行のフィンテックセンター所長として国内での金融技術の発展を支え、今は京都大学で教授を務める岩下直行氏が通信業者が集うイベント「インターロップ」に登壇した。

まずは発展が盛んなシリコンバレーにおけるフィンテックの発祥について。3年前、米金融大手JPモルガン・チェースのCEO、ジェーミー・ダイモン(Jamie Dimon)が「次はシリコンバレー」(Silicon Valley is coming) という囁きなどが
本場の金融業界からの注目を物語っている。フィンテック業界への投資は2012年に 一旦鈍化したものの、その後も成長が続いて 2015年にピークを迎えた。現地では送金を円滑化するPaypalの成功などの前例もあり、フィンテックが浸透しやすい環境が整っている。今の新興企業としては個人間での融資を提供するLendingClubがあり、今後も画期的なアイデアが実現されそうだ。

一方、日本ではフィンテックの浸透に障壁が存在する。米国と比べると国内の投資環境は整備がまだ不十分で、全体の出資額も少ない。いわゆるPaypalマフィアとよばれるPaypal出身者が起業で成功したというサクセスストーリーも、日本では類似例が存在しないために起業を支援するような積極性も乏しい。また法律面での問題もあり、資金決済法 によって 日本ではPaypalが使いにくいというのが現状だ。

しかし、普及を妨げている最大の要因は金融業界のインフラにあると岩下氏は指摘する。日本の金融インフラはインターネット普及前に確立されたために低速度を前提にした独自の通信方式を今でも利用しており、一般のインターネット回線との相性が悪い。その上、勘定系システムの構成が密結合しているので改変すれば問題が起きやすく、依然従来のまま運用が続けられている。

それでも金融機関はフィンテックを取り入れたいために、外部企業の買収に乗り出している。急成長するベンチャー企業が既存の大手を脅かす米国とは対照に、日本では協調路線が主流となっている。さらに、金融インフラが外部と接続しやすくすることを義務付けた銀行法の改正がフィンテック普及の追い風になりそうだ。いずれ現金社会の常識を覆すこともあり得ると岩下氏は注目している。

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ローランド リチャード

ローランド リチャード

1994年、東京生まれ。大学時代にリッキーレポートを始める。現在は会社勤めしている。 社会人生活を始めてから更新が途絶えるものの、また新しい記事を投稿したい思いを持っていた。

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