鈴木寛先生とは僕の通うSFCで初めて実際にお会いしたが、実はその以前から先生の事は存じ上げていた。周りの生徒からは「すずかん」の愛称で親しまれている先生は教育に対して熱心で、文部科学省副大臣を勤め終わった今でも積極的に発言されている。僕の周りの学生達の間で確かに大変評判の良い先生であったが、僕が初めて先生の講演を聴いた時にその理由が分かった気がする。今回は鈴木先生のオリジンをたどるため、インタビューを試みた。
鈴木先生はコミュニティーを作っていく方だという印象を受けます。このリーダーシップはどのように培われましたか?
誰しも赤ちゃんの頃からリーダーシップを発揮した訳ではありません。やはり学生の頃のクラブ活動からでしょうか。先輩の方々を手伝う中でマネージメント能力が芽生え、周りのみんなから「鈴木」と指名されるようになりました。
灘校で高校時代を過ごしましたが、非常に自由な学校です。先生にも押し付けられることは皆無でしたので、リーダーシップが発揮しやすかった。そのような環境でチームを作る事が好きでした。
高校では文化祭や体育祭の委員会に参加し、みんなからは「お祭り男」と呼ばれていました。また、サッカー部のマネージャーをやっていた時期もあります。こちらは顧問の先生がいたものの、監督がいないチームでした。それにも関わらず、神戸市1部リーグ優勝に導きました。さらに社会科研究会の幹事もしていました。
のちに東京大学では、ネバーランドミュージカルコミュニティーに携わり、合宿連盟の理事もやりました。
その後は通産省へ入省されましたが。
大学院に進学して政治学の研究を続け、のちに大学の先生になることも考えていました。テレビ局とかも進路としてありましたね。
でもずっと前から公の仕事に就こうと思っていました。ただ、私はサラリーマンの息子なので、2世、3世とかではないと議員になれない。だから公務員という選択をしました。通産省では代理店、テレビ局、コンサルタントなどの民間企業と同じ雰囲気のような仕事をしていました。例えば、私の学生時代、通産省は東京国際映画祭のプロデュースしていたのです。私が入省してからはJリーグの立ち上げやサッカーワールドカップの招致のお手伝いをしました。のちに文部科学省の副大臣になった時に仕事を円滑に進められたのも、公務員としての経験があったからこそなのです。
先生は現在どのような活動をされてますか?
主に教授としてクロスアポイントされた東京大学と慶應義塾大学での活動をしていますが、他にもスポーツや音楽関係の仕事もしています。
議員として著作権に関する法案に携わっていましたが、JASRACという著作権管理団体で著作権のあり方をしっかり確立することで音楽活動の振興を促進しています。
また日本サッカー協会の理事として、他国の協会やFIFAとの関係強化を計っています。
先生は駅構内にクリニックの導入をすすめたり、コミュニティースクールの立ち上げなど携われるなど、様々なプロジェクトを通してコミュニティーに影響を与えてきました。物事は人々の協力があってこそですが、先生はどのように人を動かしてきましたか?
やはり、まずは徹底的に熟議をしますね。お互いが考えている事が食い違ってはプロジェクトは絶対にうまくいきません。だからまずは自分の考えている事を繰り返し説明し、相手に120%伝わっているかを確認します。それから相手が考えている事をヒヤリングして引き出し、自分で理解していく事が大事です。ここはサボってはいけません。とにかくチームメンバーの考えを言語レベルで共有する事を丁寧に行います。
まったく関心がない人に動機付けを深める事は難しいと思いますが、少しでも関心があったら相手のやる気がどんどん増幅していきます。それは私がそのプロジェクトでやる社会的意義、歴史的意義、あるいは本人の人生にとっての意義だとか、そういう事をいつも考えています。多くの人は歴史の1ページを飾りたいという意欲があるので、その1ページを作れる予感を持てば人は動きます。
パソコンの父として知られるアラン・ケイの言葉を借りれば、「未来を予測する最大の方法は自らそれを作る事です。」
最後に人生の中で影響を受けた本についてお聞かせください。
中学1年生の時の副読本でした。
この著者で取り上げたい1冊です。
今まで信じていたものと違う枠組みが登場し、非常にフレッシュでした。以来、複雑系の科学を社会に応用し適応してみたいと思いました。
様々な歴史書を読みましたが、これが印象に残っています。
鈴木寛先生プロフィール
1964年、兵庫県生まれ。東京大学法学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2001年に参議院選挙に出馬・当選。2009年に文部科学省副大臣に就任。現在クロスアポイント制度で東京大学と慶應義塾大学で同時に教授を務め、社会創発塾塾長、日本サッカー協会理事も兼任。
ローランド リチャード
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