眩しい太陽がふり注ぐイタリアから、ロックの熱風が日本に上陸した。その名も「オザンナ」。 プログレッシブロック全盛期の70年代に結成した彼らは、今でも創作意欲が衰えない。これまで数々のプログレの名演が繰り広げられた川崎クラブチッタでは、雨天を忘れさせるほどの熱気に包まれた。
幕が開いてオザンナの5人が揃って登場。自国で発展したオペラへのオマージュさながら、顔には大胆なペイントが施された。お辞儀の後、iPhoneで全員集合の自撮りする姿が笑いを誘った。
まずは定番の曲から。先ほどの砕けた雰囲気を吹っ飛ばすように 『Fog in my Mind』から始まり、イントロのオルガンの音に包まれた会場はシリアスなムードへ。ボーカルのリーノ・ヴァイレッティ(Lino Vairetti)の嘆きの声が輝き、往年のエネルギーに溢れていた。テンポが上がると他の楽器も加わり 、数曲のメドレーが続いた。
ロックの演奏にジャズらしいアクセントが感じられたのも、デイビッド・ジャクソン(David Jackson)がいてこそ。白髭がかえって粋だったデイビッドは、還暦を過ぎたとは思えないスタミナでサックスを2体持って陽気に熱演。ベテランならではの二刀流にファンを脱帽させる。
テンションがこのまま上がり続けると思いきや、汐引きの音で会場全体が自然回帰のような静けさを取り戻す。そこにシンセサイザーが神妙に鳴り響き、リーノがマイクに囁いた 。オープニングトラック『Marmi』がバンドの最新作『Palepolitana』の完全上演の開始を告げた。そこから神聖な雰囲気から一変し、 上機嫌なドラムビートが入る。意気投合したメンバーの気持ちが伝わったのか、観客までがノリノリに楽しんでいた。
アルバムを完走すると 、イタリアから連れてきた音楽仲間との化学反応を披露した。まずは赤いドレスが印象的なジェニー・ソレンティー(Jenny Sorrenti)が登場。 オザンナと一緒に『Tristana』を歌う 。「マイ・ブラザー」「マイ・シスター」とお互いに掛け合う様子は、二人の固い絆そのものを象徴するようだった。
その後、同じ情熱家のジャニ・レオーネ(Gianni Leone)が真っ赤なシルクスーツで登場。まるでイタリア版『サタデー・ナイト・フィーバー』だ。「今夜は君のサックスを吹いていいかい?」と彼に尋かれたデイビッドが真っ先に「No!」と飛ぶ。それでもめげずに得意のハモンドオルガンで指を躍らせた 。『Everybody’s Gonna See You Die』ではメンバーに足を持ち上げられながらも、宙に浮いてワイルドに鍵盤を弾くという「神業」も披露した。ちなみにギタリストのバコ・カポビアンコも同じくイタズラされそうになったが、懸命に首を横に振ってかわした。
お祭り真っ最中のバンドにゲストでギタリストのコッラード・ルスティチ(Corrado Rustici)が加わると、演奏が大人びたサウンドに変貌した。中でも曲名通りにリズムがセクシーな『Eros』は特筆したい。
終演が近づくと、バラードの『There will be Time』やデイビッドの古巣であるVan Der Graaf Generatorの『Theme One 』を披露 。感謝の気持ちを伝えたリーノの暖かい声に、イタリア人の人懐こい人柄がにじみ出た。情熱に溢れたロックのジェットコースターは、清々しい印象のまま幕を下ろした。
photo by: Yuki Kuroyanagi
ローランド リチャード
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