シリコンバレーならず、渋い谷のシブヤ・バレー。ここはオフィスサイズを問わず、ITベンチャーの密集地帯だ。決して広いとは言えないこの領域ではIT界の顔に遭遇しやすい。たまたま渋谷にいたので、トランスリミットやカウモなど急成長のスタートアップに多数投資しているベンチャーキャピタル(以下、VC)Skyland Venturesのオフィスにて木下慶彦さんに突撃してみた。
どのようにベンチャーへの投資を始めましたか?
大学卒業後に大手証券グループのVC部門に3年いました。その後、独立系VCのインキュベイトファンドでの1年を経て、今のSkyland Venturesとして2012年にスタートしました。
起業家の方はビジネス経験豊富な方にアドバイスを求めたいはずです。例えばシリコンバレーで著名なベンチャー投資家のポール・グレアムさんは、ヤフーへ事業売却を成功させた経験があります。木下さんにはどのような強みがありますか?
大きな事業を成功に導いた方の経験は貴重なものですが、同時並行でシード(創業)期のスタートアップと向き合って事業のこと・組織のこと・ファイナンスのことを常に考えているベンチャーキャピタリストは日本では数名しかいないのではないでしょうか。そこで得ているナレッジ(知識)が強みだと考えています。また、特に最近はTwitter経由で会ったエンジニアやデザイナーが投資先のメンバーとしてコミットしてくれるケースが急増しています。それによって将来アントレプレナー(起業家)を目指す人材が成長ポテンシャルの高いスタートアップに関わってくれることは嬉しく思っています。
なぜSkyland Venturesにお金を預ける方々が木下さんに投資したいと思いますか?
成功した起業家や大きな事業を運営している会社は、未来を創る根幹はスタートアップであり、その価値をよく知っているからではないでしょうか。スタートアップの立ち上げの支援をしたいと思っている方は多いと思っています。
木下さんが独立したきっかけは?
学生時代からDeNAの初期投資家である日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)村口和孝さんにお会いする機会があり、彼と彼が語るベンチャーキャピタリストの仕事のカッコよさに惚れ込んだことがキッカケです。また、新しいスタートアップを創るにはVCとしても新しい未来を考えていく必要があり、自分でやることにしました。
日本のベンチャーキャピタルは金融バックグラウンドの人間が主体で、自分自身そういうところでVCのキャリアをスタートしています。しかし、VCの本質は金融の仕組みと、事業を創るサポートの仕組みがあると思っていて、事業支援の仕組みは日本ではまだまだ未発展であると考えています。例えば、Skyland Venturesの投資先でスマートフォン用のゲーム『BrainWars』を開発するトランスリミットがありますが、銀行がよく要求するBS(貸借対照表)・PL(損益計算書)や事業計画について話をするよりも、エンジニアイベントへの登壇機会を創るなどエンジニア採用をサポートしています。
ご自身のオフィスをトランスリミットと共有していますね。
元々トランスリミットは、同社の初期投資家でもあるEast Venturesのシェアオフィスから立ち上がりました。LINEなどからの資金調達をキッカケにトランスリミットが自社オフィスを借りた時に一緒に入居するお誘いをいただきました。
社長の高場大樹さんのことが見える環境でこれまで働いて来ていますが、常にプロダクトとメンバーと向き合っている姿は参考になります。だから僕も高場さんへ紹介する機会があれば渋谷でのアポにすることで、仕事に集中できるようにしたいと考えています。今の時代はチャットで連絡することもできますが、対面のコミュニケーションがベストです。数千人から数万人の規模の会社も多くの場合は、一箇所なり近いところにオフィスを構えているのは同じ理由でしょう。
国内のベンチャー風土をさらに盛り上げるためには?
エンジニアが育つ環境が不足しています。要因は大学がエンジニア人材育成のために機能をしていないのでしょう。日本にスタンフォード大学のようなコンピュータサイエンスの学校が必要だと考えています。
プログラミング言語Rubyを開発した松本ゆきひろさんも指摘したことがありますが、エンジニアの低年収にも問題があるではないでしょうか?
儲かっている日本企業もありますが、Googleなどのアメリカの企業の収益性は桁違いであり、それが給与の差に表れています。
シリコンバレーのベンチャーが受ける初期投資額も日本と比べてケタ違いです。
やはり日本と世界では市場規模が違うので、集まる金額も変わります。僕は95%のユーザーが海外から遊んでいる『Brain Wars』やその他の投資している会社で世界を目指すサービスを期待しています。もっとそんな風にチャレンジしてもいいはずですが、言語の壁を超えることは非常に難しいことだと思っています。
よく開催する起業関連のイベントで、特に学生をターゲットしていますね。
今の学生は優秀です。30代のサラリーマンよりも、20歳前後でインターネットリテラシーの高い人間はスタートアップのフィールドでのポテンシャルは非常に高いと思っています。リッキーも含めて。
とんでもない。学生にとっては失敗時に失うものが少ないかもしれません。それでも成功させるための素質は持っていると思いますか?
リッキーは起業に興味ないの?起業をいつかするならば早くやろうよ。
ベンチャーで新しいことに挑戦する志は尊重しますが、確かな勝算もなくむやみに試みることに不安材料があると思います。
インターンしてみてはどうでしょう 。インターンする会社選びも大事です。例えば、2-3人の規模の会社はまだ方向性が確かではありませんが、5人から10人の規模で、かつサービスの成長シナリオの創れている会社であれば、経営のサイクルが回っているので安心できるはずです。リッキーは英語を話せたりするので、スタートアップ側も興味があるはず。せっかくなら自分の強みを活かしてコミュニケーションを取るような役割をしてみては?
それもいい提案ですが、僕はむしろ開発側に回って、将来的に自分でモノを作る技術を身につけたいです。もし起業するなら、最低でも試作品が作れるようにして、そこから周りの人を巻き込んでみたいです。
木下さんはやりたいことをどう見つけましたか?
面白い質問だね。やりたいことは今でも見つからないと思っています。探している状態では見つからないでしょう。ここで重要なのはある種の「ノリ」です。よく言っているのが、チャンスを見極める目はなく、そこに対して乗り込んで行く感じがないといけません。「まずはやってみる」ですね。
今後、Skyland Venturesの目標は?
渋谷というロケーションをスタートアップの聖地にしたいと考えています。渋谷にスタートアップのリソースを集めて、シリコンバレーの起業精神のシンボル・スタンフォードを目指します。
木下慶彦さんプロフィール
1985年、横浜生まれ。2009年に早稲田大学理工学部卒業。2社のベンチャーキャピタルファンドを経て、2012年にSkyland Venturesを創業 。
Skyland Ventures: http://skyland.vc/
Twitter: @kinoshitay
ローランド リチャード
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