先日開催されたSlush Asiaは大盛況の末に幕を閉じた。追加販売後もチケットは瞬く間に完売。お台場に突如設置された会場には想定以上の観客が押し寄せ、各界の著名人や有力者も顔を出した。テレビなどのマスメディアにも報道され、既に来年の開催への準備も進められている。初回でありながらも一大起業イベントとして地位を確立した。
このイベントに携われて非常に光栄だと思っている。しかも通常のプレス枠とは違い、実は一つのステージのMCを任されたのだ。責任は大きかったが、無事に遂行、充実感でいっぱいだ。
以前にリッキーレポートで開催準備中のSlush Asiaを取り上げた記事が話題となった。自分はあくまでイベント当日を取材しようと、主催者たちと繋がるために説明会に潜入した。しかし記事を公開した後日、代表のアンティさんと学生ボランティアのリーダー田口さんとから突然連絡をいただいた。
「MCをやってみないか?」
この一文が目に入った瞬間、大笑いしたのを覚えている。普段は滑舌の悪さを自分のキャラとして逆利用している。だが確かに英語は話せないわけではない。それでも、力量を求められる MCが僕に務まるだろうか?とんでもない。
しかしながら詳しい話を伺いたかった。アンティさんはリッキーレポートをご覧になって僕が起業に関心があると直感したのこと。常にいろんな人と会ってコミュニケーションしているので、MCに向いていると思ったそうだ。メディアを運営している恩恵を感じた。
MCに興味があり、Slushを成功させたいと伝えた。すると、アンティさんから訂正が。「『成功させたい』じゃない、『成功させる』だ。」普段はなるべく謙虚に振る舞おうとしていたが、いわゆる起業家マインドセットを要求されて動揺した。この時、アンティさんの自信が印象に残った。
そこから開催までわずか2週間。ミーティングなどに参加するなど、裏方としてお手伝いさせていただいた。その際に司会を務めてなるべく経験を蓄積するようにしたが、もちろんとても十分とは言えない。とにかく失敗を恐れず挑戦を歓迎するSlushカルチャーを吸収するようにした。
開催前日。ゆりかもめ青海駅付近の空き地にいくつか白球のドームが眩しく並んでいた。急ピッチで設営されたものの、会場に集う人々が容易に想像できた。メインステージにはレーザーなどの演出装置も設置され、最終調整の段階に入っていた。イベントとして現実味を帯びた光景に感動を覚えた。
この日は終日リハーサルで過ごした。一緒にMCを務めた奈々子はわざわざ京都から来たが、 イベントの規模に興奮ぎみだった。初対面にも関わらず、MCとして意気投合できた。 担当したのはスタートアップやスポンサーの方々がアピールするデモステージ。確認に来場された各企業のプレゼンターからヒアリングし、希望に沿いつつも盛り上がる構成を練った。
その夜はボランティア向けのパーティーが開かれた。直前にパーティーのMCも提案されて快く受けたが、開始直前までスケジュールを練るなど不安があったことも否めない。多少ミスする覚悟の上で、楽しむ気持ちを忘れないよう心がけた。MC3人の中で、挨拶のトップバッターは自分だった。深呼吸すると、気合いを引き締めてステージ裏から飛び出た。
We’re almost there. In just a few hours, we will be making history.
もうすぐだ。あと数時間で我々が歴史をつくる。
最後の士気上げに、Slushの規模に見合う言葉を選んだつもりだ。これまで実現までに張りきってきたボランティアたちもさらに盛り上がり、イベントの一体感を感じる瞬間だった。その後はMC同士のバトンタッチで継ぎ合わせ。途中、ペース配分に空いた時間を即興トークの「試練」があったが、自分がどうSlush と出会った話で埋めた。これをきっかけに、テレビの生放送で流暢に話せる芸人たちにさらに敬意を感じた。最後は伝統音楽とポップを融合させた竜馬バンドが熱演。司会者のみ事前に伝えられた「サプライズ」だったことは秘密にしておく。おかげで翌日の本番への熱気が高まった。
翌朝はさらに早く7時に集合。前夜は疲労回復と睡眠確保のために帰宅してすぐ就寝したのは言うまでもない。すぐにステージに出向き、時間が許す限り 調整を加えた。セリフが確定した台本まで作り込む余裕がなかったが、MC同士の掛け合いで乗り切った。ステージ上でエネルギッシュに振りまいても、控え室では次の登壇者への準備に黙々と作業する。あげくには奈々子から「朝は低血圧なの?」と心配されるほどだった。カメラが回っていない時に表情を一変させる芸能人もいるが、彼らの省エネ指向を理解した気がする。
最初は言葉があまり流れて出なかったので、構成通りに話した。そのうち慣れてきたのか、状況に合わせてイントネーションを変化させ、登壇者のテーマと交えながら語るよう努めた。観客の方も徐々に盛り上がり、ステージに上ることが楽しみになった。
5時半にイベント終了。お別れのスピーチで締めて全行程を済ませた。自分の達成感と開放感のあまりに、ついはしゃいで外を疾走した。この時間は観客が溢れ出ていたキーノートステージ。ファミコン時代のゲーム音楽を、知る人ぞ知るサカモト教授が率いる商店街バンドが力演していた。バックドアから潜り込んだ僕は観客席より前に座り、ステージ際の特等席からバンドの臨場感に浸かった。
その夜、打ち上げではスタッフたちが疲労も忘れて祝っていた。ゼロから急ピッチで組み立てたSlushそのものがスタートアップのようだった。アンティさんや開催を一緒に企画した孫泰造さんと一緒に一杯を交わすと、デモステージの登壇者の一人が参加。彼からMCの好評を耳にしたアンティさんは、すぐに腕を挙げて僕とハイファイブ。まるでこの瞬間を待っていたようだった。
ローランド リチャード
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