「エヴァ」庵野監督とドワンゴ川上会長が考える「アニメの情報量」

ニコニコ超会議が祭り騒ぎのように賑わう中、超言論ステージにもすでに大勢の観客が集まっていた。「アニメの情報量」について議論するため、エヴァンゲリオンの庵野秀明監督、ドワンゴ川上量生会長、そしてアニメ研究家の氷川竜介さんがステージに揃った。

庵野秀明
アニメ監督、スタジオカラー代表取締役社長。代表作に『エヴァンゲリオン』。

川上量生
ニコニコ動画や当イベント主催のドワンゴ会長、スタジオカラー取締役。アニメなどのプロデューサーも務める。

氷川竜介
アニメ研究家、明治大学大学院客員教授。『エヴァンゲリオン』の劇場パンフレットなどの資料制作に携わる。

スタジオジブリの名プロデューサー・鈴木敏夫さんの元で見習いをしていた川上会長。会長の新著『コンテンツの秘密』でも取り上げられているように、アニメ制作の現場では頻繁に「情報量」という言葉が使われる。そもそも情報量という表現は90年代のエヴァンゲリオン制作時に庵野監督が使いはじめたらしい。監督曰く、映像作品では情報のコントロールが重要で、アニメは特にコントロールしやすいから好きだそうだ。当時、持論を展開したところ、情熱こそが制作の糧だと信じていたアニメ業界では賛同されなかったという。しかし同じアニメ監督の押井守さんに評価され、この考え方が定着した。

庵野監督にとって映像は科学的であり、ほとんど理屈で作られる。それも授業などで学習するようなものではなく、たくさんの映像制作を経て思考がルーチン化したものが理屈となるそうだ。それでも最終的には感性が関わり、結果として映像が情報として消費されるという。

では観客にはどのようにメッセージを伝えるのか?まず、背景に関しては場所さえ分かるようであれば十分だという。キャラクターはかわいければ、あとは頭の中で印象が補足されるそうだ。時間の流れも情報であり、コマ単位で調整できるアニメではその強みが活かされる。音声については、監督は7方向のスピーカー配置が適切だと考えている。これらを踏まえて全体の情報量が多ければ、一場面の一カットの印象を強調して調整しているそうだ。

氷川さんが画のリアリズムを追求したアニメ作品が受けている風潮があると指摘。『宇宙戦艦ヤマト』をはじめ、『超時空要塞マクロス』の劇場版「愛・おぼえていますか」では線と影の書き込みが多く、情報量にあふれている。それとは対照に庵野監督は『崖の上のポニョ』を挙げ、子供向けに作った宮崎駿さんは情報量の削減に務めたという。

実写映画も制作したことある庵野監督にとって、実写は最もコントロールしにくい。情報の調整を試みると映像が舞台劇に見えてしまうそうで、自分のビジョンの実現には試行錯誤の積み重ねが不可欠だそうだ。例えば巨匠・黒澤明監督は理想の形をした雲を撮るために1週間待機した。最近の映画ではCGを駆使して少ない予算で理想どおりに被写体を造形できるようになったが、それは悲観するべき傾向だと言う。撮影現場では肝心の箇所がCGに後回しにされ、完成した映像がアニメ調に見えてしまう。CG合成に配慮した緑色の背景を使用すると、役者の演技にも影響が出るそうだ。川上会長がプロデューサーを務める『海賊の娘ローニャ』にも言及。 全てCGで制作した映像だと見栄えがつまらなくなることもあり、 情報量が少なく感じられるそうだ。監督の宮崎吾郎さんはそれを調整すべく、CGを手書き風に出力するなど試行錯誤した。

川上会長曰く、庵野監督の絵コンテが分かりやすいそうだ。普段は一見しても分からないものの、 絵コンテは分かりやすい。監督の経験では、最低限の設計図として「つまらない」絵コンテを現場に渡すと、自分の技量を発揮したいスタッフはやる気を出すという。だからこそ絵コンテには面白くする余地を残すべしとのこと。また、監督が手がける絵コンテには監督のビジョンがそのまま読み取れる魅力もあり、それを読んでいるうちに頭の中でイメージが流れるそうだ。しかしフィルムになった途端、他人が介在した作品にははじめのイメージが損なわれやすい。だからこそ、宮崎監督が全編を描いたマンガ版『風の谷のナウシカ』が一番面白く感じるそうだ。また同じく、アニメーターの仕上がりに対して監督 は「OK」か「もう一回」と気楽に判断を下せるが、制作現場の制約によってイメージを妥協する時が一番辛いそうだ。
 

 
最後に川上会長が自著を「面白いです」と告知。スタジオジブリの見習い時代について書き起こし、宮崎駿さん、鈴木敏夫さん、押井守さんなどのアニメ界の大物たちの話を読めるとアピールした。庵野監督も一部の話に食い違いがあると指摘しながらも、入門に適していると推した。
 


 

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ローランド リチャード

ローランド リチャード

1994年、東京生まれ。大学時代にリッキーレポートを始める。現在は会社勤めしている。 社会人生活を始めてから更新が途絶えるものの、また新しい記事を投稿したい思いを持っていた。

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