いつか自分で考えた企画を実現したい!常にそんな気持ちを持ちながら、Anime Japanのクリエイター体験講座の情報を目にした。受講条件に自分のオリジナル企画書を求められ、締め切りの直前になんとか提出し、一週間後には合格通知が。無事に参加できることになった。
講師はあの「ガンダム」で有名なサンライズに所属していた古里尚丈プロデューサー。古里氏は数々のロボットアニメを手かげたことで知られる。現在は独立し、企画した『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』が放映中だ。
まず、古里講師はプロデューサーの役割は目的を作ることだと語った。例えば玩具会社が宣伝したいおもちゃがあれば、それが売れるようにアニメを設計するという。 上の人から課題をもらうと方向性が練りやすいそうだが、逆に自分で企画を考えるのは難しいようだ。いい企画には自分の強いこだわりが反映されており、講師も常にこれを心がけているという。あとは物語など作品の具体的な内容はクリエイターに任せるとなぜか出来上がるそうだ。
この時、プロデューサーに必要なのは大きな「夢」を持つことだ。そしてブレない精神で周りを巻き込み、スポンサーからお金を集めなければいけない。
スポンサーに見てもらえるよう、企画書で最も力を入れるのは実はタイトルと表紙だそうだ。出資者は忙しいため、企画書を読んでもらう機会が少ない。しかし、例え企画書が机の上に置きっぱなしでも、表紙だけは容易に目に入る。また、企画の内容がイメージしやすいよう、文字よりも絵をたくさん挿入すうことでさらに読む意欲を誘う。2ページも読んでもらえば、「もうこっちのもの。お金になりそうならさらに読みます。」すなわち、「企画書そのものがエンタメ。」これがミソだそうだ。
ここで受講生が持ち込んだ企画書が講評された。出席者数は21人。のちに14の企画が受講生に配られ、6人が実際に講評を受けた。ちなみに僕が提出したものは残念ながら配られなかった。ここでは恥ずかしい内容を省略する。
はじめに受講生に訊いたのはアニメとしての面白みについて。パッケージ化の販売が前提であるため、テレビ放映とDVDとして視聴する面白さを考えなければならない。1話を放映時に安くて1100万円、高いときは2000万円発生するなど、アニメの製作にかかる多額の費用を回収しなければならない。これについては5~10年務めているプロデューサーであれば常に考えるようになるそうだ。
「『アニメ』の意味が分かりますか? 」と講師が質問すると、「ラテン語で『命』です!」と即答した受講生がいた。その人の企画書を読み始めると、「タイトルでグサッと刺さった」と講師から好評。自分も目を通してみると、確かに世界観がイメージできるような専門用語や文学用語など揃っていた。受講生によると、常にその類の小説を愛読しているという。「これなら1ヶ月もあればちゃんと作れますよ」と評価された。
このあと、講師は毒舌に戻った。25歳のOLである受講者が自分のような立場の主人公を構えた企画を提案した。ターゲットは自分と同じく「20代、30代の仕事に燃える女性」と説明すると、「その年代の女性がアニメを見るの?DVDとブルーレイを買うの?」と講師から疑問が。内容がよくても売れなければ仕方ないそうだ。
また他の企画書を見ると、講師がいいタイトルの法則について語りはじめた。タイトルはそれぞれの媒体用に編み出すのが得策だという。紙媒体のコミック・書籍には書店に並ぶことを想定して、文字の組み方そのものに魅力を感じさせる必要があるそうだ。日本語にはひらがな、カタカナ、数字、アルファベットを利用することができるため、かなり面白い見た目のタイトルが考えられるそうだ。例として漢字とカタカナを合わせた『鉄腕アトム』が挙げられた。逆に、映像媒体のアニメにはタイトルを発音したときの印象が大事だそうだ。特に『ボトムズ』や『エヴァンゲリオン』は印象が強いという。ちなみに、講師がプロデューサーを務めている『クロスアンジュ』も当初は『アンジュ』のみだったそうだ。
最後に、古里講師が閉めにプロデューサーを目指す人へのメッセージを贈った。プロデューサーにとって、お金が儲かることは「あいさつ」「息を吸う」「手を洗う」などと一緒だという。その上で強いこだわりを持たないと、 実現化までの長期間を耐えられないそうだ。製作に携わっている『クロスアンジュ』も2010年秋に発案され、企画が好きだからこそ今年の放送にこぎつけられたという。
講義が終了し、傍観者に溢れていた会場は反省一色に染まっていた。いくらアニメが好きでも、夢だけでは力不足ということを痛感した。
Anime Japanクリエイター体験講座 http://www.anime-japan.jp/main/creator/
ローランド リチャード
最新記事 by ローランド リチャード (全て見る)
- 誰でも馴染めるテックコミュニティーの作り方とは?Pythonイベント主催者に訊く - 2023年3月5日
- 黒澤明を訪ねて38年 -『乱』の記録映像をなぜ今、公開するのか - 2023年1月25日
- フィンテックがなぜ日本で普及しないのか?日銀出身者が金融業界を斬る - 2017年8月24日