マリオを生んだゲーム界の先駆者、宮本茂

「スーパーマリオブラザーズ」や「ゼルダの伝説」はゲームを遊ばない人にとってもなじみのある存在だ。先日、東京国際映画祭で「ピクミン」をもとにしたショート作品が上映された。僕は子供の頃からこれらの作品群にずいぶんとお世話になったが、今回はそれらを生み出した宮本茂さんにお話を伺う事ができた。

 
ゲームクリエイターになったきっかけは?
僕の子供の頃にはゲームはなかったんですね。ゲームがない中で僕はマンガ家になりたいとずっと思っていたんですね。でもすごい敵が多いので、コミックライターを諦めたんですよ。
次に工業デザイナーを目指して、オモチャを作る任天堂に入った時に、ビデオゲームの技術と出会い、面白そうなので作ってみると、けっこうマンガを描くのに近い感覚でした。この分野ならライバルがいないので、やれるかもしれないなって始めたのがゲーム作りです。

 
いままでいろんなゲームを作られましたが、アイデアはどんどん出ましたか?
まず、どんどんアイデアが出てくるっていうのはrumor(噂)だと思います。僕はディレクターとかに、常に100個アイデアをまとめてこいと言い、自分でもそうするようにしています。それくらい沢山のアイデアを用意しないといけませんが、 つねにアイデアが出てくるというのは誤解だと思います。まずゲームの物理モデルで構造を作ってインタラクティブな試作品を素早く作る。それを動かしてなんか面白そうな構造が作れそうと思ったらそこからキャラクターを考えます。だからマリオを作ると決めた後から敵キャラクターをくっつけていきます。
例えばマリオの場合、必ずトゲがついているとか、燃えているとか、触っただけで駄目そうなものが出てきます。これは別にトゲのついたキャラクターを作りたいのではなくて、遊ぶ人がよく分かるような作風にしているんです。
ピクミンはすごい特殊で、100匹以上の敵がザーって動く物理モデルのゲームです。植物という設定は若いデザイナー達のアイデアです。これも物理モデルから始まりましたが、僕が考えるというよりも若いクリエイターと一緒に育てていくっていうスタイルで作りました。

 
これまでにマリオやゼルダなど魅力的なキャラクターを生み出していますが、ご自身が子供の頃に振り返って特に影響を受けたキャラクターはいますか?

マンガが好きだということもあってたくさんのものから影響を受けています。当然ディズニーやワーナーブラザーズがありますし、日本だと手塚治虫とか赤塚不二夫とかいろんな人の影響を受けてます。手塚治虫は日本のコミックスを新しく生み出していった人なので、コマ割りのアイデアを作ったり、最初にコマなしのカットを作るという、最初の事を決めた人だけに崩せる特権を持っています。また、同じキャラクターが自分のどのマンガにも出てきます。まさにマリオがそうで、マリオを作った時に自分がこれから作るゲームに全部マリオを出してやろうと思いました。そういう辺りは全部手塚治虫の影響はものすごく大きいですね。

 
今回の映画祭にピクミンのショート作品を上映しましたが、映画はゲームとどのように異なりますか?

もともと違うものだと思っていたんですけど、改めて作ってみてやっぱり違いますね。ゲームだと遊んでいる人がインタラクションすることで自分の中でイメージを広げていきます。最近のゲームは作家が語るものが多いかもしれませんが、僕の場合はそのキャッチボールでモノが出来上がっていきます。
映画の場合、基本的にはこちらから情報を全部見せます。予想外の事まで仕掛けていくというのと、予想ができる範囲から面白さをどう膨らませていくのかというのは、全然作るものが違いますね。
ただ作るという意味では非常に似ていて、まずアウトラインを作り、こだわる部分を何度も見直して、出来上がってももう1回手を入れてしつこく作り続ける姿勢は一緒ですね。

 
近年エンターテイメントの媒体としてOculus Riftなど仮想現実空間(VR)に没入できるデバイスが普及しつつありますが、宮本さんはどうお考えでしょうか?

今の任天堂が目指すのは家族のリビングであって、皆にとって楽しいゲーム機です。一人がゴーグルを被って遊ぶっていうのは非常に相性が良くないですね。例えば自分が親だと子供に被らせて一日中遊ばせたくないとか、そういう課題がまだあるんですね。その点では長い時間をかけて考えていきたいと思いますね。

 
ゲームが親に問題視されたり、社会問題の要因とみなされたりします。

スマートフォンやVRゴーグルなど、装置そのものは悪いものじゃないと思うんですよね。そればっかりする事が問題で、特に子供たちには色んな事を経験させたいです。表で遊ぶことも勉強する事も、本を読むことも、全部バランスよくすることが大事です。だからビデオゲームなんかが犯罪の元みたいな言い方をされますけど、なにか1つのことにはまったり、人とのコミュニケーションを取らなくなったりした結果なので、それを1つの装置の責任にするのはおかしいと思います。

 
将来クリエイターになりたい方へのアドバイスは何でしょうか?

すごく真面目な答えなんですが、僕がマンガ家になりたかった子供の頃に、誰かのマンガをコピーするんじゃなくて自分のものを書きなさい、って言われたんですね。それと同じくゲームが大好きな人達ってそのゲームをもとにゲームを考えますが、プロになるつもりなら自分でしか考えないものを作るべきです。だから若い人たちは、ゲーム以外のたくさんの経験をするべきですね。
また何か1つの技術を身に付ける。プログラミング、アート、音楽でもなんでもいいので、なにか1つ技術を身に付けておく。この2つに注力したほうがいいですよ。で、時間が余ったらゲームをすればいいと。

 
せっかく映画祭なので、影響を受けた映画についてお聞かせください。


宮崎駿さんは僕がものすごく尊敬するアニメーションのディレクターで、トトロが僕の中では最高のアニメーションです。何度か会った事がありますが、ゲームが大嫌いです。
やはり宮崎さんは受動的な映画とインタラクティブなゲームの違いを一番良く分かっていると思います。作る事に物凄くエネルギーを注ぎこむ方で、必ず1対1でお客さんに届いてほしいと思っているはずです。だからゲームの、出てくるかどうか分からないところに自分のエネルギーは掛けたくないじゃないでしょうか。逆に僕は遊んでいる人が快適でいる空間のためにいろんなバックグラウンドの仕事も全部する、っていうぐらいエネルギーのかけ方が違うんですよね。

 


作る人間として誰かが作ったものについてはコメントしないって決めてきたんですが、スピルバーグのレイダースがずっと最高ですね。きっとスピルバーグ以外の何人かの人達のアイデアが、巧みに1つに組み合わさっているような気がするんですよ。自分が作る場合もプロデュースする場合も含めて、色んな知恵を見事に組み合わせて納得させることができたら素晴らしいなと。ゲームの世界でもこういうことができたらと思います。

 
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宮本茂さんプロフィール
1952年、京都府生まれ。金沢美術工芸大学で工業デザインを学び、卒業。1977に任天堂に入社。マリオ、ゼルダ、ドンキーコング、ピクミンなどゲーム業界を代表するシリーズを次々と生み出す。現在は任天堂の専務取締役情報開発本部長として、様々なゲームの開発を見守る。

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ローランド リチャード

ローランド リチャード

1994年、東京生まれ。大学時代にリッキーレポートを始める。現在は会社勤めしている。 社会人生活を始めてから更新が途絶えるものの、また新しい記事を投稿したい思いを持っていた。

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