大型組織へのクラウドサービスの導入は容易ではなく、管理者の知恵が試される。通信業者が集うイベント「インターロップ」では、導入側の立場を慶應義塾大学の中村修先生が代弁し、パブリッククラウド運用のイロハを共有するとともに聴衆を占めていたサービス提供者に理解を求めた。
最大の教訓として挙げたのが、1つの業者に囲い込まれないこと。かつて日吉キャンパスの近くにあった神奈川県白楽の図書館書庫の案件を先例として参考にしたという。地理的な利便性が重宝されたものの、再開発を理由に地主から撤退を要求されたという。遠距離の山中湖付近に書庫を移動して問題を解消することができたが、これをきっかけにインフラ提供者へ過度に依存しないよう注意する必要性に気がついたそうだ。
この経験を基に、慶応大学ではクラウドサービスを多数の業者から選定している。選定基準として技術面と契約面があるという。技術面では、使用している技術についての情報公開や、エンジニアとの良好なコミュニケーションなどを条件にしている。契約関係では、訴訟時にどの国の法律が適応されるかを考慮する。例えば、マイクロソフトは日本で、グーグルはカルフォルニア州の裁判所で係争されるという。これらの条件を元に、グーグル、Box、シスコなどを取引先として選んでいる。
大学内でのクラウドサービスの提供方法にも配慮を配っているそうだ。ログイン時にはあらかじめ連携させた学内の認証システムを使い、外部事業者に個人情報の漏洩漏がないようにセキュリティー確保にも努めている。また、サービスの仕組みを各自把握し、有事には説明できるように対策を練っている。
中村先生は海外で始まったインターロップを日本に持ち込んだ功績を持つ。それも意識してか、観客に集まったクラウド事業者が利用者の声を代弁する先生に熱心に耳を傾けていた。
ローランド リチャード
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