「海猿」など日本マンガを世界に発信するベンチャー、BPSに直撃!

榊原寛先生とは、慶應義塾大学SFCの情報基礎の授業で初めてお会いした。授業で見せる陽気なノリを、普段の職場であるビヨンド・パースペックティブ・ソルーションズ社(以下、BPS)でも披露している。今回は職場にお邪魔し、代表取締役社長の渡辺正毅さんとご一緒に電子書籍の関連技術を開発するBPSについて伺った。

 

渡辺さんは生まれ育ったサンフランシスコで17年間過ごしました。どのようなきっかけで日本に来られましたか?

渡辺さん:子供のころから将来は日本に住むと決めていました。両親と一緒に毎年夏に京都に行き、祇園祭に参加したことをきっかけに日本を興味を持ち始め、毎年様々な文化に触れていくにつれてその思いは強まっていきました。漫画もその一つですね。17歳になって大学を選択する時、日本に行くなら今しかないと思い帰国しました。

 

大学卒業後、日本のIT企業に1年間勤めてから起業されましたね。

渡辺さん:はい。大学時代に憧れていた企業に就職しました。そこは労働環境もよくて快適な職場でした。ただ、働きはじめてから、自分にとって20代はがむしゃらにいろんな経験ができるような環境のほうが適しているなと気づきました。たとえば、開発者として就職したのですが、開発者というだけではどうしても社内の人以外と仕事の話をしたり一緒にものを作ったり機会が少ないので増やしたい、などですね。若く世間知らずだったこともあり、それが起業に繋がりました。もちろん貯蓄もなかったので、最初は生活費を稼ぎながらの自転車操業でしたが。(笑)

榊原さん:よくあるスタートアップは「これが作りたい」というコンセプトで始まりますが、弊社では、まずは生活費を何が何でも確保した上で、やりたいことをやっていくところからスタートしました。

 

BPSが展開しているマンガリボーンについてお聞かせください。

渡辺さん:漫画家を世界中のファンが支えるコミュニティーサイトです。ファンは好きな作品を購入する以外に、翻訳したり、見つけた好きな漫画を友達にオススメしたりしやすいようになっています。佐藤秀峰さんの「海猿」や「ブラックジャックによろしく」は特に人気で、公開と同時に翻訳希望者が集まり、翻訳者が別の言語の翻訳者を呼び、あっという間に何か国語かに翻訳するプロジェクトが立ち上がりました。
海外には著者に無断で翻訳して公開する違法サイトは以前からありましたしかしそれは現在流通している作品の翻訳品質が悪かったり、そもそも好きな作品を自分の言語で読めなかったりするためです。マンガリボーンでは作家さんとファンが交流できる場を提供し、皆の力で読める作品も読む人も増やそうとしています。もちろん著者が有料でそれらを販売することもできるので、今までになかった読者層からの収益も期待できるようになります。

 

言葉を別の言語に置き換える事はできますが、文化的な文脈は問題なく翻訳されますか?

渡辺さん:もともと漫画が好きで、ボランティアで翻訳してしまうくらいの人たちの集まりなので、文脈やニュアンスに関してはかなり意識して翻訳してくれています。当然翻訳者毎に実力の差があるので、翻訳者同士のコミュニティ内で相互に校正しあって納得できるものを完成させてくれています。人気の翻訳者さんたちの中には長年日本に住んでいた人や翻訳を普段生業としている人もいて、校正を依頼されているのをよく掲示板で見かけます。うまく翻訳できていると思いますよ。僕自身が確認出来るのは英語文法の正誤くらいですが。

 

個人的にはパソコンやスマホの電子版よりは、印刷された紙の方が読みやすいです。電子版への抵抗がある中で、どのように読者をマンガリボーンへ誘導していくつもりですか?

渡辺さん:私も紙は好きですよ。日本にいれば書店も多いし、有名な作品ならコンビニにも置いてあるのであまり不自由しません。ただ、我々のターゲットは本来その漫画が買えなくて読めない方々です。ワンピースやドラゴンボールはあるかもしれないけど、そこまで有名じゃない作品は翻訳もされていないか流通していないかで、いろんな種類の漫画を読めない人は多いんです。立ち読みもできないことが多いので、翻訳された漫画があっても好きかどうか判断できない。日本国外のこういった方々が僕らのターゲットです。

 

「クールジャパン」などの運動がありますが、日本のコンテンツは世界中にうまく発信されていますか?

渡辺さん:国策として動いていないので、なかなか難しいのではないでしょうか。ハリウッドのアメリカやボリウッドのインド、また韓国などは産業と政府が連動して国を挙げて自国の文化を世界に発信しています。日本には特にそういうものがありません。各企業が自分たちの努力だけで海外に発信しようとがんばっていますが、どうしてもマンガだけでは弱いものがあります。そう考えると、日本のコンテンツは良いと評価されますが、ハリウッドにストーリーだけ買われてリメイクされるなど、日本のものとして外に出て行くというのはなかなか難しいのではないかと思います。

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日本文化が独特に感じられ、海外に理解される形で輸出するのは難しいという懸念もありますか?

榊原さん:マンガという表現媒体が世界的にそもそも受け入れられるのかという疑問がありますね。結局娯楽の中で肝心なのはストーリーであり、それが小説、アニメ、実写の映画であってもいいのです。そんな中で、マンガは中途半端という意見も多い。小説は文字でイマジネーションを働かせて読みますし、映画は何も考えずにガーッと入ってきますが、マンガはその中間にあって、その中途半端さが魅力である一方で、本当に世界中で受け入れられるのか疑問に思います。僕ら日本人は子供の頃からマンガを読む環境があり、慣れ親しんできたことは大きいと思います。

渡辺さん:すごいですよね。電車の中でいい大人がジャンプを読んでいる風景、今は慣れましたが最初は戸惑いました。

榊原さん:それは私ですから。(笑)

渡辺さん:僕も、今では毎週やってます。(笑)

 

最後に人生の中で影響を受けた本についてお聞かせください。

榊原さん:

ソフトウェアをどういうコンセプトで作っていくについての本です。もう30年も前のものですが、今でも活かせるような事が書いてあります。

 

渡辺さん:

会社の価値観をどう作っていくか?どう社内に広めて、根付かせるのか?を考えるきっかけをくれました。ぼくらは技術や技術者や技術によって作られたシステムを提供する会社なわけですが、どうすればそれを使ってくれる人が感動してくれるのか?感動し続けてくれるのか?その想いをに共感してくれる人をどうやって会社としてサポートできるのか?を考えるうえで今でも参考にしています。

 

渡辺正毅さんプロフィール
1984年、17歳までサンフランシスコ在住。2002年に慶応義塾大学SFCに入学し、
2005年にマイクロソフト主催イマジンカップで「あしあと」プロジェクト入賞。
2007年、BPS株式会社を設立。(ホームページより抜粋)

榊原寛さんプロフィール
1980年埼玉県生まれ。2010年慶應義塾大学政策・メディア研究科後記博士課程単位取得。
IPA 未踏事業 2006年度、2007年度開発責任者。日本学術振興会特別研究員(DC2)2008年度。
BPSでは、主に電子書籍に関する事業に従事。(ホームページより抜粋)

 

マンガリボーン: http://ja.mangareborn.jp/

BPS株式会社: http://www.bpsinc.jp/

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ローランド リチャード

ローランド リチャード

1994年、東京生まれ。大学時代にリッキーレポートを始める。現在は会社勤めしている。 社会人生活を始めてから更新が途絶えるものの、また新しい記事を投稿したい思いを持っていた。

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